(続)find は一瞬の動作?:found の状態は瞬時に終わる?

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find は一瞬の動作?【2021年6月20日改訂】

2019年3月11日

の記事で,動詞 find が,見つけるという一瞬の動作だけではなく,見つけた後の状態も含むことを示しました。

 

ところがです,

英文法書の最高峰とされ,このサイトでもよく引用させていただいている安藤貞雄著『現代英文法講義』[43]のp.483 に,次のような記載があります(太字,下線は板倉)

(基本知識:「限定用法の形容詞」は, 名詞のにつく形容詞です)

23.4.1 「恒常的:一時的」

形容詞の意味論で一番重要なことは,限定用法の形容詞は通例,主要語の「恒常的(permanent)な特徴」を表す…
.
(中略)
.
次のペアの場合,lost の文法性と  found  の非文法性は,「恒常的一時的」の対立で説明される。つまり,「一時的な状態」を表す形容詞を限定的に使用することはできない,ということである。

(3) a.    a lost purse(なくした財布)
—–b.  *a found purse(見つかった財布)

言葉を変えて,「なくした」という状態は見つかるまで続くが,「見つかった」という状態は瞬時に終わる,と言ってもよい。

「*」は,非文法的であること(英語として許されないこと)を示す記号です。

見つかったという瞬時に終わる状態」を表す found を,名詞の前に置けない,と言っているわけです。

前の記事で扱った find については,「見つける」という瞬時に終わる動作に加えて,その後の状態も含むことを理解するのは,日本人にとって容易ではないと思われますが,
found は「見つかった」後の状態(発見ずみの)を含めることに,それほど違和感はないように思われます。
その found の方が瞬時だけと言われてしまったら,find が瞬時の後も含むとはとても言えなくなってしまいそうです。

私が安藤先生の本に最初に接したのは,50年近く前の大学1,2年生の頃,「英語語法研究」(研究社出版,1969,安藤先生42歳頃の著)でした。
私は英語を専攻していたわけでもないのに,とても読みやすく,楽しく一気に読み終えました。
島根大学(その後広島大に移られた)に,このようなりっぱな先生がいるのか,と感動したことをはっきりと覚えています。
2017年に広島でお亡くなりになったようですが,私が2013年に広島大教育学部で講演させていただいた折に,ご挨拶に行けるほどの自分でなかった(今でもですが)ことが残念です。

 

さて,参考文献一覧に,『謎解きの英文法』[61〜70]があります。
その中の最新作『謎解きの英文法 形容詞』[70 p.57-67] に,上記[43 p.483]への反論があります。
まず,utteredspokendiscovered限定用法で(名詞の前で)用いられた実例を示した上で, 次のように述べています(下線,文字色は板倉)

過去分詞形の形容詞は完了受身の解釈を表します。したがって,これらの文の過去分詞形形容詞は,「発話ずみの,話されずみの発見ずみの,…」という恒常的な状態を表していることになるので,これらの表現が限定用法として適格文に現れていることに何ら矛盾がありません。
.
(中略)
.
これらの過去分詞形には限定用法がないはずだ,というような議論は成り立ちません。

discovered は「発見ずみの」という恒常的な状態を表しているので,限定用法で(名詞の前で)使える,ということです。
つまり,『謎解きの英文法』は、

安藤貞雄先生の記述[43 p.483]は
間違いだ

と言っているわけです。
さらに,

安藤の「見つかった」という状態は瞬時に終わる,という主張には問題があります。Find「見つける」という動作は瞬時に終わりますが,found「見つかった,発見ずみの」という状態は,すぐには終わりません。

と述べ,Googleからの検索例を掲載しています。

『謎解きの英文法』のシリーズの著者の1人久野暲(くの すすむ)先生は,ハーバード大学言語学科でPh.D. を取得し,同学科で40年間教鞭をとり,現在ハーバード大学名誉教授です。
このシリーズを執筆する上で,母語話者コンサルタント陣(そのレベルの高さは容易に想像できます)をかかえています。

これで,この記事のはじめに「その  found の方が瞬時だけと言われてしまったら,find が瞬時の後も含むとはとても言えなくなってしまいそうです。」と書いた危機?は脱しました。
found に「発見ずみの」というよい言葉があることも認識できました。

find の見つけたあとの状態にも同様のよい言葉(日本語)があればいいのですが。。

 

Itakura
ただ,『謎解きの英文法』[70]では
find見つけるという一瞬の動作だけではなく,見つけた後の状態も含む」
ということについては,言及されていません。
日本人英語学習者にとっては,こちらの方が重要な問題であると感じます。

なお,基本的なことになりますが,[70 p.58]で

限定用法の形容詞(前置修飾)は,恒常的状態や名詞句の特質を表す
叙述用法の形容詞(後置修飾)は,恒常的状態一時的状態のいずれをも表すことができる

ということが確認されています。
「後置修飾は一時的状態」だけと暗記していたら,修正しておいた方が良さそうです。

 

参 考 文 献

[1]ウィズダム英和辞典 第3版(2012)
[2]ジーニアス英和辞典 第5版(2015)
[3]ランダムハウス英語辞典 第2版(1993)
[4 リーダーズ英和辞典 第3版(2012)
[31]OALD オックスフォード現代英英辞典 第9版(2015)
[35]Collins Cobuild Advanced American English Dictionary(第2版,2016)iOSアプリ:コウビルド米語
[43] 現代英文法講義 安藤貞雄著 開拓社(2005)
[45] 表現のたための 実践ロイヤル英文法 綿貫陽・マイク・ピーターセン共著 旺文社(2006)
[70] 謎解きの英文法 形容詞 久野暲・高見健一著 くろしお出版(2018)
[91]The Cambridge Grammar of the English Language Rodney Huddleston・Geoffrey K. Pullum 著 Cambridge University Press(2002)Kindle 版

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ABOUTこの記事をかいた人

板倉

〜2016 鹿児島大学水産学部教授 ,2016〜2017 水産学部特任教授(英語教育担当),2016〜 鹿児島大学名誉教授/ 〜2017 CIEC(コンピュータ利用教育学会)理事,ネットワーク委員会委員長,2018〜 CIEC 監事/ 2015〜「英語の見える化」研究会主宰/ 資格: 獣医学博士(北海道大学)/