「英語の文法なんて必要ない。」
という言葉とともに,
「品詞なんてどうでもよい。」
という言葉も聞こえてきます。でも「英語の見える化」では,他動詞と自動詞,副詞句と形容詞句,という「品詞」の区別を重視しています。
では,この「品詞」が英語学習において大事なものであるのは,なぜなのでしょうか?
基本的なことであるのに,一般にあまり認識されていないことに,
英語の「品詞」と日本語の「品詞」はまったく別物
ということがあります。
ウィキペディアの「日本語」のページの「品詞体系」の項に,
橋本進吉は、品詞を分類するにあたり、単語の表す意味(動きを表すか様子を表すかなど)には踏み込まず、主として形式的特徴によって品詞分類を行っている。橋本の考え方は初学者にも分かりやすいため、学校文法もその考え方に基づいている。
という説明があります。簡単に言うと,
学校で習う日本語の「品詞」は意味より形式
ということでしょうか。
日本語を身につけてしまっている日本人が,「品詞なんてどうでもよい」と思うのも致し方ないように思われます。
それに対して,英語の「品詞」は ‘part of speech’ (文の中での役割)です。ランダムハウス英語辞典では「語を意味・形態・構文上の機能などに基づいて分類した種別」となっています。つまり,
英語の「品詞」は
語句の意味および語順と密接な関係
があり,文の意味を理解する上で必須の基本です。
予習などでの和訳において,品詞を意識せずに辞書を引くのは,ただ和訳を作るための訳語を見繕っているわけで,英文を英語として理解しようとしているとは,言えません。
この「和訳の創作」が日本の英語教育をダメにしている,と言っても過言ではないでしょう。
宮田泰雄先生(元宮崎大学)が,外国語教育の研究会(2006年)でのご講演で,
品詞感覚の無い学生に英語を教えるのは
無精卵を温めるようなもの
熱を入れても腐るだけ
とおっしゃっていたのを思い出します。宮田先生は,
日本語には「形容詞」は無い
ともおっしゃいました。私はこれを聞いて瞬時に理解しました。
そうです。日本語の形容詞は連用形(「速く」など)で動詞を修飾できます。形容動詞もあります。
英語では,文の中で名詞を修飾しているか,名詞(物事)の性質・状態を表していれば形容詞です(「名詞に情報を加えるもの」というのも良い説明だと思います)。
さらに,形容詞句や形容詞節は名詞の後に来ます(日本語とは逆)。
宮田先生の言葉を聞いて
英語教育において,もっと形容詞に注意を払うべきだ
と悟りました。
英語教師が簡単に「この単語は形容詞です」と説明している時,生徒はどう理解しているのでしょう?
「英語の見える化」で指導した後で学生に「英文を読むときに,他動詞と形容詞とどちらが分かりにくいですか?」と聞いて手を上げさせると,10年間以上の経験で,ほとんどの場合で,半々に分かれます。
どうやら,
日本人には
他動詞が苦手なタイプと形容詞が苦手なタイプがある
ようです(どちらも簡単という学生には,なかなかお目にかかりません)。
宮田先生が,大学生の品詞感覚をみるために使われた英文をご紹介しましょう。
英語では1つの単語が,名詞として使われたり,動詞として使われたり,通常は前置詞であるのが,副詞になったり,接続詞になったり,ということがあります。
品詞がわからないと,英文の解釈は当て推量にならざるを得ません。
以下の英文は,正しく解釈するために品詞感覚が必要であり,良問であると思います。
必要なら辞書を使い,和訳も考えてみてください。
品詞感覚を問う問題
【設問】緑字の単語の品詞(働き)を特定し,その判断の根拠も書きなさい。
- She’s a very beautiful woman. She used to model.
- He found it increasingly difficult to read, for his eyes were failing.
- Immediately I’ve done it I feel completely disgusted with myself.
- It’s past your bedtime.
- If the end of the school term comes near, then is the time you have to begin studying hard.
- He saw her empty a bucket of kitchen scraps.
- Only the chosen few in the city had that kind of privilege.
- My grandfather may not live that long.
- The sea wind drove snowflakes steadily inland.
- a species near extinction
”「解答」を表示する”
解 答
この解答は,宮田先生の資料を参考に,板倉が作成しました。
- model : 自動詞(モデルをする)
used to は助動詞扱いで,その後に動詞の原形が来る - for : 等位接続詞(…というのは)
fail は「衰える,弱る」という意
[補足] increasingly があるので,it は特定のものではなく,to read を指す形式主語と考えられる。read は自動詞(他動詞の場合は it が意味上の目的語) - immediately : 従位接続詞(…するやいなや)
- past : 前置詞(を過ぎて)
限定詞 your の前に位置するので形容詞ではない - then : 名詞(その時)
文の主語になっている - empty : 他動詞(をからにする)の原形
限定詞 a の前なので形容詞ではない
[補足] 目的語 her と empty が主述関係になっている - few : 代名詞(少数の人・物)
主語になっている
[補足] chosen は前置修飾なので「一時的に選ばれた」ではなく「選ばれた身分の」という意 - long : 副詞(長く)
動詞 live を修飾している
[補足] that も副詞(そんなに) - inland : 副詞(内陸へ)
drove の目的語は snowflakes - near : 前置詞(…に近い,…の近くに)
[補足] endangered species(絶滅危惧種)と同じような意味
”「解答」をたたむ”
英文に,記号とチャンク訳をつけてみました。
”「記号づけとチャンク訳」も見る”
”「記号づけとチャンク訳」を隠す”
【補足】
1. to model は to不定詞ですが,used to は助動詞として扱い,used to model をまとめて○で囲みます。
2. もし,「それは読むのに(それを読むのが)難しいことがわかった」であったなら,read は他動詞となり,
He (found〉it difficult [to〈read|],
Se (foVd〉O(o) = Clt [to〈er(v)
彼は 見つけた 難しいと 読むのに
. それが
のように示すことができます。構文と意味を明確にするのに,記号づけがとても有効であることがわかります。
以上です。
自分がもともとはどちらのタイプなのか,
考えてみるのはどうでしょうか。