【お知らせ】
2020年12月14日
・『大学英語の基礎』の「発音編」以外すべてをご覧いただけるようにしました。
英語の見える化の記号づけの基本についてご確認いただけます。
【改訂記録】
英語が代名詞(指示詞と呼ぶのが正しいことがあります)をよく使うことにお気付きかと思います。
日本語は、代名詞をあまり使わない言語です。言わなくてもわかる主語を省略したり、「彼は…」ではなく「先生は…」のように職名を使ったりします。英語を和訳するとき、代名詞を省略しても自然な日本語になることが多いようです。
T.D.ミントンは『日本人の英文法 完全治療クリニック』 [160]の「代名詞 it の乱用は恥ずかしい?] の中で、
日本人は、込み入った英文の中で、それぞれの代名詞が何または誰をさしているのかを割り出すのに往々にして苦労します。
と述べています。
(★マークが付いた文献番号をクリックすると、引用内容が表示されます)
this・that(指示詞)は、
・名詞の前に付いて限定詞(形容詞ではない)として
・単独で いわゆる代名詞としても
使われます[★ 96 entry 144]。
it、they、I、we、you、he や she (人称代名詞)は、
もちろん代名詞ですが、
・所有格になると名詞の前について限定詞(所有限定詞)として
使われます[96 entry 143]。
ここでは、
「指示詞」「人称代名詞」は、覚えるべき語句の分類名
であり、
「限定詞」「いわゆる代名詞」は、あくまで語句の役割・機能
です。
つまり、
指示詞 this・that は、
代名詞ではなく、いわゆる代名詞
として使われるだけ
というわけです。
[★ 91 p.1504]では、指示詞this・that について
・限定詞としての用法を非独立用法
・いわゆる代名詞としての用法を(代名詞とせず)独立用法
と呼んでいます。
this・that は、代名詞ではなく指示詞である
ことをしっかり抑えることが大事です。
英語では、意味内容のつながり(論理的なつながり)を作るのに指示詞・人称代名詞が大きな役割を果たしています。その理解無くして英文の正しい理解はありません。
this、that、it などを辞書で引くと、それぞれが多様な(しかし、しっかり決まった)用法をもっていることは、わかります。
しかし、あまりにたくさんの項目が掲載されており、学習者は整理と理解に困ります。
『現代英文法講義』[43 p.425〜] に、かなり詳しい解説がありますが、「外界照応」などの用語を難しく感じる人も多いでしょう。
そこで、
指示詞・人称代名詞の多様な用法を
記号を使って示す学習法を提案します
文中の指示詞・人称代名詞の意味がわかる、ということは、その指示詞・人称代名詞が何をさしているのか(あるいは、どの名詞句の代わりをしているのか)、つまり指示対象(人称代名詞の先行詞を含めて使っています)が何であるのかわかる、ということです。
指示詞・人称代名詞の指示対象は、文章中にある場合とそうでない場合があり、まず、そのいずれであるのかをわかることが、日本人の英語学習で大きな意味を持ちます。。
それで、この学習法では、
指示対象の存在場所を明示することを
記号づけの第一の基本とします
それによって、例えば、文章の流れの中で語られている途中で、急に、外(現実世界)に視線を向けられたとき、その変化をしっかり理解することができます。
次に、個別の事柄になりますが、重要なこととして、
that が「先行する文の内容」に言及する場合
指示対象は(名詞句ではなく)節的内容である
と考える立場をとります。
これを明確にすることによって、
文章中では、that は節を指し、it は名詞句の代わりをすることが主である、
という整理が可能となります。
この考え方を支持するものとして、上で引用した[160]に、
・一般的に言えば、it はすでに言及された特定の名詞の代わりをする
・前の文や節に言及する際に that や this という指示代名詞を用いると、その節が強調される
(この「指示代名詞」は「限定詞」と読み替えてください)
のように書かれています。
なお、this が文章中の内容に言及する場合は、さらに踏み込んで、「話題を指す」という考え[43 p.449][14 p.206]をとります。
本記事の内容を1ページにまとめたPDFファイル、Excelフィアルを、次からダウンロードできます。
(2021年7月20日更新)
指示詞・人称代名詞の用法の記号づけ(PDFファイル)
指示詞・人称代名詞の用法の記号づけ(Excelファイル)
用例を確認できるページを、順次作成していく予定です。
・it・that を日本語の「それ」と比較してみてわかることへ
下の表の各セルの用例と解説の記事をブログで作成し、
セルの中からリンクを張ることを考えています。
用いる記号を赤色で示しています。
大きなフォント(Ⓝ N ○ Cl )は、その用法が主要な用法であることを示しています。
空白のセルは、該当する用法が基本的に無いことを示しています。
表の横幅は固定されています(800px)。
右端の「it its it」の列まで表示されていない場合は、ブラウザの表示幅を調整する、「▶」キーを使う、などで対応してください。
○ : 現実世界を表す
♡ : 意識・心を表す
D: discourseの略(ディスコースというより[91]で用いられている discourse)
Cl : clause(節)の略(補語のCと区別しやすくするには筆記体で続けて描くとよい)
N : noun(名詞)の略(名詞句としては述べられていないが内容からわかる 物・人・ことを含む)
T : text(文章)の略
T+♡ : 文章中の内容と、意識の中にあるものが合わさったものを受けていることを示す
>T, >N : 文章中で、指示詞・人称代名詞 の後で述べられている内容、名詞句をさすことを示す
this : 文章中の指示詞 this(独立用法) を受けていることを示す
that : 文章中の指示詞 that(独立用法) を受けていることを示す
記号は,英文中の指示詞・人称代名詞の上中央に付けます。ただし、限定詞として使われている場合は修飾される名詞の上に付けます。
所有格の itsの場合は its の上に記号を付けます(対象となる名詞の意味が、 itsに含まれるため)。theirの場合も同様とします。
・一般のyou、一般のthey の記号は G(Generic の略)とする
・関係者のthey では (G) とする
・they が「場面からそれとわかる複数の人」を直接指す特別な状況の場合の記号は Ⓝ人 とする
he、she の同様の用法[91 p.1469]についても Ⓝ人 とする
・we が相手を含むことを明示する記号は +you とする(相手を含まないことを特に示したい場合は -you が使える)
・教師が生徒に説明するとき
・生徒が自分の考えを表明するとき
に便利です。ノートへの書き込みも簡潔になります。
さらに、
・過去に学習した英文中で、気になる用例を探すとき
記号を探せばいいので簡単に見つかります。
また、実際には、どの用法なのか判断が難しい場合も多く、
自分で悩んだり、人と相談する時にも役に立ちます。
[1]ウィズダム英和辞典 第3版(2012)
[2]ジーニアス英和辞典 第5版(2015)
[3]ランダムハウス英語辞典 第2版(1993)
[14]コンサイス英文法辞典 安井稔編 三省堂(1996)
[43]現代英文法講義 安藤貞雄著 開拓社(2005)
[91]The Cambridge Grammar of the English Language, Rodney Huddleston・Geoffrey K. Pullum 著 Cambridge University Press(2002)Kindle版
[96]Practical English Usage Michael Swan著 Oxford University Press(オンラインアクセス付き 第4版 2017)
[98]Demonstratives: Form, Function and Grammaticalization Holger Diessel著 John Benjamins Pub Co (1999 UK版)
[160]日本人の英文法 完全治療クリニック T.D.ミントン著 アルク(2007 新装改訂Ver.1.0, Kindle版 2019)
[176]ディスコース 談話の織りなす世界 橋内武著 くろしお出版(1999 第3刷 2002)
英文中の指示詞・人称代名詞の用法を確認できるだけではなく、
使われない(使っては、いけない)用法を知ることもできます。