「英語の見える化」の始まり

生まれてからの体験で自然に言葉を身につけるには,長い時間がかかります。幼児期の柔らかい頭脳も必要でしょう。みなさんは,さらに学校で,国語だけではなく理科や社会,そして算数でも,日本語を鍛えられたはずです。大人としての日本語を身につけるために,膨大な体験と学習の時間をかけてきたわけです。

日本人が英語を(それなりに)身につけるのに,そんなに長い時間はかけられませんし,幼児期に戻ることもできませんから,当然,効率化が必要です。そのためには,母国語の場合ならば体験から導き出される言葉のルールすなわち文法を,うまく利用し,体験をはしょって英語を学ぶのが最短の道でしょう。

でも「文法なんて必要ない」という言葉をよく耳にします。学校で文法を教わっても効果が乏しかったからでしょう。文法は難しいですね。文法書の例文は分かっている人にしか分からないことが多く,先生の説明も自己満足になりがちです。文法用語(「目的語」とか「不定詞」とか)も日本語として理解困難です。

さて,英語を理解するのに,
特別な環境下での幼児期からの膨大な体験と学習を取るか
理不尽に難しい文法を取るか
勘と記憶に頼ってなんとかするか
(それで満足するか)
しかないのでしょうか。

英語は,ヨーロッパ言語の中でも
語順が重要である(「他動詞+目的語」が基本)
前置詞句が発達している(副詞句形容詞句となる)
という独特の特徴を持つ言語であると言われています。

その重要である語順は

ボールを 蹴る  kick a ball他動詞+目的語
机の上の    a book on the desk名詞+形容詞句

では日本語とは逆になっています。さらに,日本語の他動詞は助詞(「を」など)の助けを借りており,英語の(本格的とも言える)他動詞は日本人には把握が難しくまた,英文中に頻出する前置詞句にも悩まされることになります。

板倉研究室のゼミの英文読解では,そのような英語と日本語の違いを踏まえて
「他動詞+目的語」を記号で明示する
前置詞句の副詞句と形容詞句を記号で区別する
という,一種の「記号づけ」(この記号の基本形は寺島隆吉先生の記号研方式から学ばせていただきました)を始めました(2008年)。これは,英語を理解する上での

当たり前の基本を
記号を工夫して明示した

ただそれだけの簡単なことであったのですが,

初めて英語がわかりました!

と言う学生(4年生,院生)の声が続出し,正直,その威力に驚かされました。板倉としては,英語教育はこうあるべきだ,と考えたのではなく,当たり前の基本を示したら,

驚くような成果が出てしまった

ということで,英語教育改善の「 現実解 の予期せぬ発見であったのです。

さらに,英文の基本構造を理解すると,より詳しい文法を理解する余裕や意欲が生まれることもわかりました。必要ではあるが難しかった文法を,積極的に学べるようになったのです。文法だけではなく,英語の表現を英語として理解しようという姿勢も生まれました。研究室でも,大学院の授業でも,英語に正面から取り組んだ指導であるのに,学生に笑顔が見られるようになりました。つまり,

誰もが始められ
楽しく学べる英文法

を取るという道があったわけです。

2013年に,英文の基本構造を視覚的に把握しやすくする,ということで,この学習法を「英語の見える化」と名付けました。学部の「実用英語科目」の非常勤講師であり板倉の指導法の良き理解者である大庭まゆみ先生(ハミング発音スクール)には,ハミング8メソッドの口の形の絵記号を含めての「見える化」路線で賛同を得ました。

「英語の見える化」では,原則として,授業の前に和訳を配布します。予習で和訳をさせると,品詞を意識せずに辞書を引いたり,訳語をつなげて(元の英文とはまったく意味が異なる)日本語文を創作することにつながります。授業中は,記号づけとチャンク訳(語句の塊ごとの訳)をさせます。構文と語句の意味がわ,かれば英文を英語として理解できるようになるというわけです。学習者による記号づけとチャンク訳(の特に語尾)を見ると,品詞と構文への理解度がよくわかります。「学習者の英語力の見える化」でもあるわけです。


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